今年6〜8月の3ヶ月間に、健康診断で胸部レントゲン1回、整形外科で腰,首等のレントゲン計2回、脳外科で頭部CT1回撮りました。心臓も再検(観察)で近いうちに1度診てもらいたいのですが、たぶんその時も胸部レントゲンを撮る事になると思うのですが、短期間で放射線被曝量が多すぎるでしょうか?もう少し間をあけて受診した方が良いでしょうか?
まず結論から申しますと、全く問題ありませんし、日にちを開ける必要もございません。いくつかその理由を述べてみます。
まず、放射線の影響とは被曝した部位に起こります。今回は胸、腰、首、頭と撮影した部位が異なっております。したがって、撮影した回数は多いかも知れませんが、それぞれの臓器や器官が被曝した線量は低いと考えられます。
放射線の影響は大別すると2つあります。その一つは確定的影響というしきい線量(影響が発生する最小の線量:つまりこれだけ被曝すると脱毛が起きるとかという線量)のある影響、そしてもう一つは確率的影響(発癌、白血病や遺伝的影響)(被曝した線量に比例して発生確率が増えると仮定しているためこう呼ばれます)です。
最近の疫学調査では、医療のような低線量被曝群では有意な確率的影響(遺伝的影響や癌発生)の増加は認められず、発癌が確率的影響にあたらないとも言われております。
まずここで用いるグレイ(Gy)とは被曝線量の単位と理解して下さい。ミリGy(mGy)とはGyの1/1000、マイクロGyとはGyの1/1000000です。他にSv(シーベルト)という単位もあるのですが、話が複雑になってしまうこと、今回のご相談がX線に限られており、X線ではSv=Gyと考えてよいことからGyで全て通すことにします。
確定的影響としては
| ・ | 精巣 | | 一時不妊(しきい値0.15Gy)、永久不妊(3.5〜6Gy) |
| ・ | 卵巣 | | 一時不妊(0.65〜1.5Gy)、永久不妊(2.5〜6Gy) |
| ・ | 眼の水晶体 | | 白内障(2〜10Gy) |
| ・ | 胎児 | | 流産(受精-15週の被曝、100mGy)、奇形(受精後2-8週の被曝、100mGy)知恵遅れ(受精後8週-15週の被曝で、0.12Sv) |
| ・ | 皮膚 | | 初期一時的紅斑(2Gy)、一時的脱毛(3Gy)、主紅斑(6Gy)永久脱毛(7Gy)、皮膚壊死(18Gy) |
です。これらは、基本的に急性被曝であり、日常の医療での急性被曝でこれらの数値をこえることは、放射線治療などを除いて、まずあり得ません。
確率的影響としては、発癌・白血病・遺伝的影響などがあげられます。これらは最近の広島・長崎の被爆者を対象とした調査でも、200mGy以下での確率的影響発生の統計学的有意差は認められておりません。
遺伝的影響につきましても、広島・長崎の被爆者の子供・自然放射線レベルの高い地域の子供・放射線科医師の子供などを対象とした調査でも、遺伝性の疾患の発生増加は認められておらず、現在までには放射線被曝による遺伝的影響の発生は、人間では確認されておりません。
胎児の影響がでる100mGyや、確率的影響の発生増加が認められる200mGyには遠く及ばないことが、おわかりいただけるかと思います。
次に短期間で・・・と言う問題ですが、放射線によって人間の体は多少なりとも障害を受けます。しかし実際には目に見える形で障害が発生することは極めてまれです。これは何故かと言いますと、人間の体には修復作用が備わっているからに他なりません。したがって厳密には期間を開けた方が良いのかも知れません。
しかし、今まで述べてきました様に、医療での被曝というのは多くの場合、極めて低線量です。つまりこれら低線量のレベルでは放射線による障害は発生しておりません(癌の放射線治療や血管内治療の一部ではでは、一部脱毛とか皮膚紅斑が発生しますが、診断レベルの線量では障害は発生しません)し、修復作用の次元まで考える必要もありません。
したがって期間をあけることによって、病気の発見が遅れたりする方が、放射線による影響(まず発生しませんが・・・)よりも、不利益が大きいと思います。従いまして、今回のケースでは被曝線量も多くありませんし、期間を開ける必要も無いというのが結論となります。