相談:
(女性)
妊娠への医療放射線の影響について教えてください。
最近国際放射線防護委員会から「妊娠と医療放射線」という冊子が出版されました。ここでの内容の要旨と基本姿勢について述べてみたいと思います。我が国ではこの国際放射線防護委員会から出されている勧告を、ほぼそのまま国内の法令へ取り入れております。
以前某全国紙において、妊娠に気づかずに腹部X線CT検査を行い、そのために中絶手術を行った例が報道されました。この記事は放射線防護の分野ではちょっとした話題となりまして、放射線被ばくとその影響について正当に理解していれば、これが堕胎に値するレベルの被ばくでないことは明らかであり、言うなれば不必要な中絶がなされたものと評価されております。
以下に「妊娠と医療放射線」の要旨と基本姿勢を述べます。
・適切に実施された大部分のX線診断手技による出生前の被ばく線量で、出生前死亡・奇形・精神発達障害のリスクが増加して、放射線に起因するこれら発生率が自然発生率を上回ることはない。ただし放射線治療では、有意な影響をもたらす可能性もある。
・妊娠中の患者での骨盤から離れた部位のがんは、放射線治療が可能であるが、慎重な放射線治療計画が必要である。
・100mGy以下の胎児線量では、放射線被ばくのために妊娠を中絶する医学的な正当性はない。通常の多くのX線診断においては、この胎児線量を超えることは希である。
・100mGy以下の胎児線量での放射線誘発の小児がんや白血病のリスクは、自然バックグラウンドレベル(医療でのような人工的な放射線被ばくがない)群と比べ、ほとんど違いはない。
・両親のいずれかが、受胎前に生殖線への放射線被ばくがあったとしても、それにより子供にがんあるいは奇形が増加するという結果は、示されていない。
・胎児がX線ビーム内に入らない低線量の検査(妊娠中の母親の胸部・頭頚部・四肢のX線検査など)では、個々に胎児線量の推定を行う必要はない(つまり、胎児はほとんど被ばくをしない)。
以上、本当にかいつまんで簡単に概要を述べました。ここでの精神は、やみくもに放射線検査の安全性を強調し、検査適応を増長させることが目的ではなく、(もちろんしないに越したことはないのですが)必要に迫られて行う妊娠中の放射線検査の際に、必要な知識を普及することにあります。なおこの「妊娠と医療放射線」は、日本アイソトープ協会から日本語翻訳版(邦題「妊娠と放射線」)も販売されております。